怠惰―惰性と堕性―

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1回、2回、あぁボール落とした。 小さな身体で頑張ろうとするその姿は確かに無垢で純粋だ。 「あー!全然出来ない!」 「最初はそういうもんだ。何事も反復練習って言ってだな、何回も何回も繰り返すと自然と身体が覚えるもんさ。」 言いながら思い出す。そういや、部下のアイツにも同じ事教えたっけな。 実際、ドジだったアイツはみるみる成長した。 人手不足だからって頼りすぎたんだ。 疲れ果てて、注意力も落ちて。 明らかに働きすぎなアイツにも気付かず…いや、気付かない振りをしてた。助かるから。 やっぱりアイツが死んだのは自分のせいだろう。 もっとゆっくりさせてやれたら、あんな事故に巻き込まれる事も無かった。きっと車に気付いて避けれてた。だからアイツを殺したのは俺─── 「おじちゃん?」 突然の声にハッとなる。 「どうしたの?お腹痛いの?」 「うぉ、お前なんつう顔してんだ!」 随分と顔を歪ませてしまっていたんだろう、親子揃って心配そうな顔しやがって。 「あー、いやちょっと腹が痛くてな。もう治った、大丈夫だ。」 「バカ野郎、体調悪いなら言いやがれっての。 もう昼過ぎだし丁度いいからファミレスでも行くか。」 「ファミレス!?パフェ?パフェ?」 「だーー!!何だお前またパフェか。虫歯治ったばっかりだろ!」 うぐっ、と声を詰まらせてる子どもを見ながらふと思った。 今は過去を振り返る時じゃない。目の前の幸せを守らなきゃな。贖罪にはならないだろう、けど、せめてこれからはそういう生き方が贖罪になる。そう思う。 さて、決意を新たにしたところで。 悲劇の回避には13時ぴったりに公園を出ること。 この公園には出入口が二つ、13時ぴったりに公園に入ってくる元ドライバーと会わないように反対の出入口から13時ぴったりに出る。 今は12時55分。 これならいけそうだ。 荷物纏めてゆっくり歩けば問題ない。 ギャーギャー騒ぐ親子に声を掛けて公園を出る準備をした。 さぁ、あと少しだ。
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