短編集

幽愛

｢ねぇ｣

電話の向こうから聴こえる問いかけ。俺は知っている。これは問いでも何でもない、答えすら求めていない独白だと。

｢死にたいよもう｣

いつも通り、皆が言う事だ。死にたい。
別に本気で死ぬ訳じゃない。分かってる、ただのおまじないだ。死にたいという言葉を吐いて、出来もしない事だと再確認して、でもその一瞬だけでも全てを投げ出せた様な気持ちになれる。生きる為に死にたいという言葉で一瞬、瞬きよりも少ない刹那の間だけ自分を殺すんだ。

｢前向きな自殺だよなぁ、その言葉｣

鼻で笑うように問いかける。きっとその言葉を放つ本人はそこまで考えていない。けど、サンドバッグにされる方の身にもなって欲しいもんだよなぁ。

｢何言ってんの？こんなので死ねるなら苦労しないっつの｣

いつも通り、治療のような時間。
要はただの愚痴聞きなのだけれども、流石に毎度同じだと飽きる。

｢それはそれは失礼しましたっと。けどアレだぞ？言霊ってモンがあってな？言い放つ言葉には力が宿るんだ。自分の言葉に殺されても知らねぇぞ？｣

｢それならまず休みが欲しいって言葉に力を与えて欲しいよ全く。人員不足、休み無し、サービスの質の低下、遠のく客足、売上の低下に伴う従業員削減。悪循環過ぎない？？｣

それは確かに悪循環だ。真綿で首絞めてるようなモンだな。だからといって赤字店舗が更に金掛けて従業員確保……無いな、そりゃ無い話だ。