三章 にわか雨

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 翌日、寝不足のまま仕事をこなしたわたしは、少しも嫌な気分じゃない自分を自覚した。  子どもを寝かしつけてから、胸に手を当てる。  季節はもう秋の始まり。窓から入る夜風は少し冷たいのに――手を置いたそこは暖かかった。  少しだけ眼を閉じる。彼の優しそうな顔が浮かんだ。  わたしはぶんぶん、と首を振って、熱くなった頬を冷まそうとする。  いやいや、そんな馬鹿な。これじゃまるで十代の女の子じゃないか。  わたしはバツイチで子どももいて、そんな子どもみたいな恋するような身分じゃない。  たとえバーチャルでも、控えないと。  そんなことを、自分に言い聞かせる。  心が落ち着いて行くのがわかった。  それは、もう終わってしまった夫婦生活で身につけたもの。  心をざわめかせるものを、自分から追い出していく。  それは確かに、わたしを助けてくれた。それがなければ、今日までたくさんあった嫌なことに耐えられなかっただろう。  けれど、と自分に問いかける自分がいる。  今のこれは、嫌なことなんだろうか?  心はざわめく。  それは、あってはいけないことなんだろうか?  わからないまま、けれどわたしは落ち着いていく。  そうして、いつものわたしに戻っていく。
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