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イベントが始まると、参加者はお互いと疑似カップルを演じ始めた。
とはいっても、同じグルでの事、周りからは丸見えなのであくまでも疑似カップルでしかない。
交わされる会話も、ちょっと甘酸っぱいけれど、可愛いものだ。
本人は照れくささを楽しんで、周囲はニヤニヤしながらそのやりとりを見て楽しむ。
それだけ。
本当に、ただそれだけなのに。
わたしは、仲良く二人だけで会話するダイとメグを見て、辛いと感じた。
携帯を閉じて、立ち上がる。子どもは寝室でお昼寝しているから、わたしは一人の時間を楽しんでいた。
そのはずなのに、どうしてこんなに切ない気持ちにならないといけないんだろう?
空気を入れ替えようと窓を開けて、そのままベランダへ出る。見上げる空は、夏空というよりは見事な秋晴れの空だった。
太陽は穏やかな光を放ち、遠くには薄く雲がかかっている。
暖かい光とわずかに冷たい空気。
心が洗われるようだった。
「女心と秋の空、ってね」
深い考えもなく口にした言葉に、わたしは自分で思う。
わたしの気持ちも、変えていかなきゃ、だよね。
ダイともメグとも上手くやっていきたいなら――それしかないんだからさ。
でも――それでいいのかな?
疑問に答えてくれる人はいるわけもなく、わたしは一人空を眺め続けた。
強い風は吹いていなくても、雲はゆっくりと動いていた。
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