第2章 春疾風 ~花吹雪の中で~  

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あの日、葉月は珍しく都心に出かけた。 用事の帰りに思いつき、 杉崎の赴任する大学のキャンパスに立ち寄ってみることにした。 電車を途中で降り、駅から大学へと歩きだす。 葉月自身が大学生ということもあり、軽い気持ちで門の前に立つ。 キャンパスは、都心とは思えない程広々としていて、 銀杏並木が並んでいた。 秋にはさぞかし鮮やかだろうと、想像できた。 杉崎が専攻する学部学科の建物を、案内板で探していると、 ふいに後から声を掛けられた。 「どちらへ?」 「あ、はい。政治学科第一の・・・」 答えながら振り向くと、背の高い女の人が立っている。 学生には見えない。職員だろうか。 「あら、私もそこに行くから、案内するわ。」 「いいえ、そんな。」 遠慮する葉月の返事もろくに聞かず、歩き出す。 「で、政治第一には、どんな用事?」 「あっ、えと、大学院の試験の要項を・・・」 咄嗟に口から出た言葉は、まんざら嘘ではなかった。 杉崎が行く所なら、私も行ってみたいと考えた事は確かだ。 「へぇ、女の子で、珍しいわね。って私もそうだったわ。」 「?」 「あ、私、こう見えても、講師よ。政治学科第一のね。 現代社会における、正義のとは何か。なんて語ってるのよ。」 ふふっと長い髪をかきあげて、笑う姿は、 圧倒的という言葉がピッタリくる程、美しかった。 「私は、朝比奈真理子(あさひなまりこ)。 ようこそ、我校へ。待ってるわ。」 建物に到着すると、教授一人一人名を挙げて、 専門や口癖までも、面白可笑しく説明してくれた。 葉月は、真理子の話に引き込まれ、 時間が経つのを忘れるほどだった。 杉崎の名が真理子の口から出てくるまでは。 「そうそう、春から一人、 癖のある講師がやってくるわ。 杉崎君っていうの。」 「何するか解らない奴みたいだけど、 彼とは面白い話ができそうね。」 君づけで呼ぶからには、敬治さんより 年上なんだろうか。 楽しげに話す真理子を見て、葉月は胸が締め付けられた。
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