第2章 春疾風 ~花吹雪の中で~  

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どれほど時が経ったのだろうか。 薄紅(うすくれない)の向こう側に、若葉が見えた。 桜が終われば、新緑かぁ。 若葉も好きだなぁ、爽やかで 清々しくて。 「お前、なにやってんの。」 喋ったのは若葉ではなく、高村颯だった。 首からかけた若草色のタオルが揺れている。 「あ。花見・・・」 見間違えたことが恥ずかしくて、思わず顔が熱くなる。 「ふうん、オレ一時間前にここ通ったけど、お前、居たよな。」 「へ?」 全然気付かなかった。 って、お前呼ばわり・・・ 「飯食ってんの?」 「あ、はい。」 「よかったら、食べます?これ。たくさん作ったんで。」 持ってたタッパーを差し出す。 「・・・じゃ、オレも、ここで昼飯、食う。」 颯は葉月の隣にどさりとバッグを置いて腰を降ろした。 よく見れば、手元に学内の売店の袋。 ガサガサと弁当を取り出す。 ラップをはがして蓋をあけながら、 颯は、葉月の差し出したマカロニサラダを凝視していた。 「お前、これ全部食べるつもりだったのか。」 葉月も、相当食べたが、大きいタッパーに、まだ半分以上残っている。 「他に、ないのか?」 「うん、これだけ。」 へへへと照れて笑う。 「お前、やっぱり、変わってんな。」 「へへ。」 ひたすら笑うしかない。 「ん、うめぇ。」 颯は口いっぱいに頬張りながら、目を細める。 その一言が、思いのほか嬉しく感じる。 颯の隣、暖かい日だまりの中、葉月は心地よかった。 時はゆっくり流れ、 そよぐ風も、 たおやかで、のどかで、どこまでも優しかった。
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