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運送会社のバイトと陸上部の練習で明け暮れた大型連休も終わり、
また普段通りの授業が始まった。
なんとなくざわついて、落ち着かなかった四月とは違い、
キャンパスを歩く学生たちは、それぞれの目標を見つけて歩き出しているようだった。
久しぶりの陸上部の休みと休講が重なり、まるまる空いた午後に、 颯は馴染みのバイク屋に顔を出していた。
フランクガレージという小さなバイク屋で、「FG」のロゴの看板がどこか映画で見たアメリカの酒場のように見えた。
店主の船井竜也(ふない たつや)はリーゼントで、いつもコーラ片手にバイクをいじっている。
腕は確かで、颯の年季の入った古いバイクを丁寧に面倒見てくれる。
根っからのバイク好きの主人だ。
そして、純(じゅん)という名前の奥さんがありえないくらいの美人で、
どうして、この男に こんな奥さんがいるのだろうと、颯は常々不思議に思っていた。
「あら、いらっしゃい。」
純が颯に声を掛ける。
「あ、どうも。」
ぴったりした革ジャンの上から、そのスタイルの良さが分かる。
何やら主人の竜也と話している、和やかな空気が漂う。
夫婦って、いいもんだなぁ、と颯は素直に思えた。
「あ、オレちょっとメシ食って来ます。」
親指を立て、目的の場所を指す。
「おう。」
竜也の返事を背中に受けながら、店を出た。
そして、すぐ隣りの小さな洋食屋、「双葉亭」のドアを押すと
客を知らせるベルがなった。
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