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会計を済ませようと、席を立つと、オーナーが声を掛けてきた。
「高村君。時間があったら、ちょっと手伝っていかないかね。
今日のお代はいいから。」
見ると、そう広くもない店内の席は全て埋まり、店の外にも数人並んでいる。
「オーナー、頼むんなら、もうちょい愛想のいい、可愛い女の子にしてくださいよ!」
厨房の中から、鍋を振りながら半次郎が口を挟む。
颯は、ムッとして睨みつける。
「あと、目つきのいい奴!」続けて飛んでくる。
「いやあ、大丈夫。竜也君からも、礼儀正しい青年だって聞いとるしな。どうかね、手伝ってくれるかな。」
「あ、いいですよ。」
颯にとっても、食事代が浮くのは魅力だった。
「ほれ。ヘマすんなよ。」
と奥から、面白くなさそうに半次郎がエプロンを持ってくる。
オーナーに手順を簡単に教えてもらい、フロアに出ていく。
まったく愛想はないけれど、颯の動きに無駄がなかった。
料理を運ぶついでに、空いた皿を下げ、テーブルを片付ける。
合間を見て、たまったグラスまで洗っている。
オーナーはそんな颯の働きを、ふむふむと笑って眺めていた。
あらかたの客がはけ、やっと一息つけたのは、二時間程経ってからだった。
「ご苦労さま。ちょっと一服して。」オーナーが声をかける。
「あ、はい。」颯はカウンターに腰を下ろす。
「悪いね、食事代以上に、働いてもらっちゃったね。」
コトッ、目の前にアイスクリームサンデーが置かれた。
半次郎が厨房から持ってきた品だった。
練習で疲れが溜まった時に、食べたりする。
覚えてたのか。
半次郎の気遣いに、颯は思わず手を合わせて「いただきます。」と呟く。
あ、と思い顔を上げると、半次郎は背を向けグラスを片付けていたので、その表情は知ることはできなかった。
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