第3章 夕凪 ~面影を探して~

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会計を済ませようと、席を立つと、オーナーが声を掛けてきた。 「高村君。時間があったら、ちょっと手伝っていかないかね。 今日のお代はいいから。」 見ると、そう広くもない店内の席は全て埋まり、店の外にも数人並んでいる。 「オーナー、頼むんなら、もうちょい愛想のいい、可愛い女の子にしてくださいよ!」 厨房の中から、鍋を振りながら半次郎が口を挟む。 颯は、ムッとして睨みつける。 「あと、目つきのいい奴!」続けて飛んでくる。 「いやあ、大丈夫。竜也君からも、礼儀正しい青年だって聞いとるしな。どうかね、手伝ってくれるかな。」 「あ、いいですよ。」 颯にとっても、食事代が浮くのは魅力だった。 「ほれ。ヘマすんなよ。」 と奥から、面白くなさそうに半次郎がエプロンを持ってくる。 オーナーに手順を簡単に教えてもらい、フロアに出ていく。 まったく愛想はないけれど、颯の動きに無駄がなかった。 料理を運ぶついでに、空いた皿を下げ、テーブルを片付ける。 合間を見て、たまったグラスまで洗っている。 オーナーはそんな颯の働きを、ふむふむと笑って眺めていた。 あらかたの客がはけ、やっと一息つけたのは、二時間程経ってからだった。 「ご苦労さま。ちょっと一服して。」オーナーが声をかける。 「あ、はい。」颯はカウンターに腰を下ろす。 「悪いね、食事代以上に、働いてもらっちゃったね。」 コトッ、目の前にアイスクリームサンデーが置かれた。 半次郎が厨房から持ってきた品だった。 練習で疲れが溜まった時に、食べたりする。 覚えてたのか。 半次郎の気遣いに、颯は思わず手を合わせて「いただきます。」と呟く。 あ、と思い顔を上げると、半次郎は背を向けグラスを片付けていたので、その表情は知ることはできなかった。
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