25人が本棚に入れています
本棚に追加
まばらになってきたフロアは、だいぶ静かになり、すぐ後ろのテーブルの客の話し声が聞こえる。
聞くともなしに、耳に入る。どうやら、颯と同じ大学の生徒らしい。
「おまえ、どうすんの?あの眼鏡の先輩。けっこう、脈ありそうじゃん。」
「ん?どうしようかと思ってさぁ。あんまり、入れ込まれると、怖いなと思ってよ。」
「とっとと、一発やったら、サイナラしちゃえばいいじゃん。」
「やっぱ、寂しそうな女に限るね、すぐ、こう潤んだ目で見つめてさぁ。」
「まったく、ゼミの先輩なんかに、手出すなよ、後々面倒だろ。遠山、葉月っていう名前だっけ?」
「ああ、そんな名前。」
「あ、ちょっとぉ、灰皿もらえる?」
エプロン姿の颯に向かって声を掛ける。
颯の背中が固まる。
ゆっくりと立ち上がり、後ろを振り向いた。
「店内、禁煙となっております。お皿、お下げしてもよろしいでしょうか?」
低く、抑揚のない声で尋ねる。その冷たい響きにギョッとして顔を上げる二人の客。
一人は、短い短髪で、手には煙草を持っている。
ギロリと睨みつけると、颯は黙って皿を下げて行く。
そして、戻って来ると
「他にご注文は、ございませんか?お客様。」
なけりゃぁ、とっとと帰りやがれ!
無言の圧力を目いっぱい発しながら、テーブルの傍らに立ちはだかる。
「い、いえ、ありませんっ!」
その迫力になにやら不穏な空気を察し、
二人の客はガタガタと席を立ち、足早に店を出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!