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しばらく二人の消えた方向を無言で睨み付けていた颯に、半次郎が声を掛ける。
「何者?あいつら。」
その声に振り向き、颯はしまったと、すまなさそうな顔をする。
「わりぃ、二人程、客減らした。」
「ま、いいけどよ。下品な客は、こっちから願い下げだ。」
「・・・なんか、あったのか?」
「いや。」
そっと出されたホットコーヒーに促され、カウンターに腰を下ろす。
「先輩の彼女。好きな奴が出来たからって、ついこの前、先輩と別れて・・・
そいつの好きな奴ってのが、どうやらさっきのふざけた野郎らしくて・・・」
「あんまり、酷い事話してるんで、つい?」
「ん、あぁ。そんなもんだ。」
あいまいに頷く颯。
「ほっとけないって訳だ。」
「・・・・いや・・・違う・・・と、思う。」
はっと顔を上げ、慌てて否定するように話し出す。
「なんか、さっきの野郎、その先輩に似てるもんで・・・髪型も、煙草吸ってる所も。きっと、あいつ、忘れられないんじゃないのかって・・・」
言葉に詰まり、横を向く。
「心配する理由には、十分だ。」
半次郎が意味ありげに、笑ってみせる。
その笑みの理由など、颯には検討もつかずに、席を立つ。
「ごちそうさん。美味かった。」
「ありがとう。またいらっしゃい!サービスするよ。」
オーナーが奥から、にこやかに声を掛ける。
「どうも。」
ペコリと頭を下げると、颯は店を後にした。
「双葉亭」もランチの後の夜の仕込みに入る。
ドアに "CLOSE" の札が掛けられ、カウンターで、半次郎がコーヒーをすすりながら呟く。
「どっちかっていうと、あいつに似てるけどな、さっきの男。」
*****
何やってんだ、あいつは。
さっきの男に対する怒りなのか、葉月に対する怒りなのか、
釈然としない思いでバイクにまたがると、颯は夕暮の街にエンジンを鳴らして飛び出していった。
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