第3章 夕凪 ~面影を探して~

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しばらく二人の消えた方向を無言で睨み付けていた颯に、半次郎が声を掛ける。 「何者?あいつら。」 その声に振り向き、颯はしまったと、すまなさそうな顔をする。 「わりぃ、二人程、客減らした。」 「ま、いいけどよ。下品な客は、こっちから願い下げだ。」   「・・・なんか、あったのか?」 「いや。」 そっと出されたホットコーヒーに促され、カウンターに腰を下ろす。 「先輩の彼女。好きな奴が出来たからって、ついこの前、先輩と別れて・・・  そいつの好きな奴ってのが、どうやらさっきのふざけた野郎らしくて・・・」 「あんまり、酷い事話してるんで、つい?」 「ん、あぁ。そんなもんだ。」 あいまいに頷く颯。 「ほっとけないって訳だ。」 「・・・・いや・・・違う・・・と、思う。」 はっと顔を上げ、慌てて否定するように話し出す。 「なんか、さっきの野郎、その先輩に似てるもんで・・・髪型も、煙草吸ってる所も。きっと、あいつ、忘れられないんじゃないのかって・・・」 言葉に詰まり、横を向く。 「心配する理由には、十分だ。」 半次郎が意味ありげに、笑ってみせる。 その笑みの理由など、颯には検討もつかずに、席を立つ。 「ごちそうさん。美味かった。」 「ありがとう。またいらっしゃい!サービスするよ。」 オーナーが奥から、にこやかに声を掛ける。 「どうも。」 ペコリと頭を下げると、颯は店を後にした。 「双葉亭」もランチの後の夜の仕込みに入る。 ドアに "CLOSE" の札が掛けられ、カウンターで、半次郎がコーヒーをすすりながら呟く。 「どっちかっていうと、あいつに似てるけどな、さっきの男。」 ***** 何やってんだ、あいつは。 さっきの男に対する怒りなのか、葉月に対する怒りなのか、 釈然としない思いでバイクにまたがると、颯は夕暮の街にエンジンを鳴らして飛び出していった。
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