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やべぇ、言いすぎた。
「そんな、つもりじゃ・・・」
葉月が目を伏せる。
「・・・お前、時間あんだろ?ちょっと付き合え。」
颯は、葉月の腕を取ると歩きだした。
夕方だが、まだ明るい。
初夏を思わせる風が、二人の間をすり抜ける。
颯はとめてあったバイクの所まで来ると、 葉月の荷物を自分のリュックに入れる。
それを葉月に背負わせ、持って来てたヘルメットをかぶせる。
くぐもった葉月の戸惑う声が、古フェイスのメットの中から聞こえる。
「え?あの?何処行くんですか?っていうか、これに、乗るの?」
颯は笑いながら、「いいから、しっかり掴まってろよ。」とだけ告げる。
颯が先に股がり、葉月に促す。
おそるおそる手を廻した葉月の手をギュッと握って、しっかり掴まらせる。
ゆっくりとアクセルを開け、二人の乗ったバイクが街へと滑り出した。
賑やかな街並みが目まぐるしく過ぎていく。
最初は、建物一つ一つを見ながらきょろきょろしていた葉月だが、エンジンの振動と、身体に当たる風が気持ちよく、しだいに身体を颯に預け、流れて行く景色を何も考えずに、ただ眺めていた。
市街地を駆け抜け、松林が並ぶ単調な景色に移り変わる。
バイクを止め、ヘルメットを脱ぐと、潮風が髪にはらむ。
「うわぁ~~~、海だぁ。すごい、久しぶり。」
陽を浴びてキラキラと輝く海面に目を奪われながら、葉月が口を開く。
「行こう!高村君。」
って、オレが連れて来たんだぞ、と思いながらも、 はしゃぐ葉月の後を、颯はついて行く。
途中で、靴と靴下を脱ぐと、葉月もそれを真似て裸足になる。
細かい砂が、ひんやりと足の裏に触れる。
「気持ちいい~~!」
波打ち際まで来ると、行きかう車の音も気にならなくなり、 打ち寄せる波音と風の音だけが、周りを包む。
まだ、海水浴には早いこの時期、人影もなく、 この海辺に二人しか居ないかのようだった。
颯はその場にどかっと腰を下ろすとゴロンと仰向けになり、目を瞑った。
葉月は、颯が気持ちよさそうに寝ころがるのを見ながら、 波打ち際に歩いていく。
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