第3章 夕凪 ~面影を探して~

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「うわっ。つめたっ!」 指先に触れる波は、気持ちよく葉月の足先を洗っていく。 跳ねるように駆け寄っては戻り、繰り返し波と戯れる。 風と波の音だけが、葉月を取り囲む。 ザザァ、ザザァ・・・ いつしか、時のたつのも忘れて、空っぽになっていた。 ふと、立ち止まり、颯の方を向く。 さっきから、動いてないし、連れて来といて、寝ちゃってる? 葉月は、思い付いたように、手を海で濡らすと颯に近づき、その頬に触れる。 「つめてっ!」 颯が片目を開ける。 「何すんだよっ!」 「だって、眠っちゃったかと思って。」 「寝たら、悪ぃかよ!」 「あは、ほんとに寝てたんですね。」 葉月が笑う。 「まったく、犬っころみたくはしゃいでよ~。」 文句を言いながらも、顔は怒っていない。 ムクっと颯は起き上った。 「ふふ、楽しいですよ。」 立ち上がり、ゆっくりと波打ち際まで近づく。 波に足を洗われながら、颯は大きく伸びをする。 「ん~~~っ!」 と大きく伸びをする颯の足を、何度も波が覆う。 「うゎお!冷てぇ!」 「高村君、反応、遅っ!」 葉月が笑いながら隣に立って顔をのぞき込む。 「・・・・・」 颯は、何も言えなかった。 波音だけが二人の間を行き来する。 なんだか、さっきからこいつの顔、まともに見れねぇな・・・。 「あっ!」 急に葉月が声をあげて立ち止まる。 「高村君!ほらっ、貝殻っ!」 葉月が指差した先に、白く光る貝殻が見えた。 引く波にさらわれて、流れていく。 葉月は、小走りに近寄って手を伸ばす。 波にさらわれる一歩手前で、拾うことが出来た。 「見て!」 得意そうに、掲げてみせる。 「わっ!バカ・・・」 颯があわてて腕を引っ張ったが、遅かった。 バッシャーン! 屈んだ体制で、寄せる波をもろにかぶり、葉月はシャツまでズブ濡れになった。 颯も、腰から下が海に浸かった。
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