第4章 涼風

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あぢぃ。 颯はグランドの片隅の木陰で、寝転がっていた。 大学は夏休みに入り、連日、陸上部の練習が続いていた。 今日の練習がようやく終わった。 週末の休みをはさんで、来週は涼しい避暑地での合宿が待っている。 どっちにしろ、一日練習でキツイのには変わりはないが、 涼しい分だけ、まだ気が楽だ。 手元のポカリと麦茶のペットボトルは、残りも少なく、ぬるくなって手が伸びない。 練習の後すぐは、何も食べる気になれず、昼食がいつも三時頃にずれ込む。 けだるい身体を投げ出したまま、時折吹く風に、少しまどろんだ。 冷てぇ! 頬に当たる冷たさを感じて目を開ける。 顔の側で、葉月がしゃがんで、颯をのぞき込んでいた。 「何すんだよ!」 急に現れた葉月に、驚きを隠せず、語気が荒くなってしまう。 葉月は、気にするでもなく、笑いながら、コンビニの袋を目の前に差し出す。 「ふふ、ほんと、よく寝るのね。」 「うるせぇ。」 「はい、差し入れ。練習終わったんですよね。」 むくりと起き上がり、葉月を見る。 Tシャツに七部丈のパンツ。足元はスニーカー。 化粧っけもなくて、相変わらず色気も何にもない格好に、 颯は、何故か少し安心する。 葉月は隣に腰を下ろし、袋からかき氷バーを二つ取り出した。 「ソーダといちご、どっちがいい?」 「ソーダ。」 「ふふ、やっぱり。」 何がやっぱりだ。ムッとしながらも、受け取る。 「ご馳走さん。」 ほどよく溶けたかき氷バーは、口の中で崩れ、頭がシャキっとする。 大きな口で頬張る颯を、満足そうに見つめていた葉月も食べ始める。 「ん~、美味しぃ。」 「やっぱ、暑い時に食べないと。こういうのは。」 一人で喋りながら賑やかな奴だ。 「あ~~っ!」 急に大声を上げるので、見ると葉月のアイスが崩れて地面に落ちていた。 「あぁ、まだ半分も食べてないのにぃ。」 「ったく、ごちゃごちゃ喋ってんからだろ。トロくせぇなぁ。」 「・・・う・・・」
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