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次の日の夜、葉月の分のヘルメットをシートに着けて、大学へ向かった。
七時じゃ会場に着く前に、花火大会が始まってしまうじゃねぇか。
そう思いながら、門に着くと葉月が構内から手を振って颯を呼ぶ。
「高村君、こっち、こっち。」
近づいて、バイクのエンジンを切る。
「花火見に行くんじゃねえのか?」
「はい。だから、学校で見るんですよ。」
いつもの場所にバイクを置くと、葉月のあとをついて行く。
たどり着いた所は、葉月のゼミの教室がある棟の屋上だった。
「へぇ、こんなとこ、入れんのかぁ。」
「鍵が壊れてるんですよ。教授達も知らないし、誰もこんな所来る人もいないし。」
「ここから、よく見えるんですよ。」
葉月が立った場所の向こう側の空に、パッと花火が上がる。
だいぶ遅れて、ドンと小さく音が聞こえた。
「あ、始まりましたね。」
遠くから眺める花火は、小さくて御殿まりのように可愛らしかった。
葉月は、時折、あっとか、わぁとか、声をあげて嬉しそうに眺めている。
「ほんと、花火って大好き。綺麗だなぁ。」
うっとり、眺めながら葉月が呟く。
柵にもたれ掛かりながら一緒に見ていた颯が応える。
「そんなに、好きなら、会場まで行って見りゃいいだろ。」
「一度、会場まで行ったことはあるんです。でも、すごい人混みで、
くじけて帰って来ちゃったんですよね。」
「いいんです。私は、ここから、ゆっくり見ている方が・・・」
「そんな最初から諦めてたんじゃ、手に入るもんの入らねぇ。案外、花火の真下に絶好の穴場って、あるもんだぜ。」
颯は、今日葉月を連れて行くつもりだった場所を思い浮かべながら、
ぶっきらぼうに呟く。
「・・・・」
葉月が下を向いて微笑んだように見えた。
行く気があるなら、オレが連れてってやる。
そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。
顔を上げたたしぎの大きな瞳が濡れているように見えた。
遠くの花火が、瞳に映っている。
そのまま、何も言えなくなって、颯は遠くの花火に目をやった。
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