第1章 東風 ~彼女は煙草の香り~

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葉月が、杉崎敬治に連れられて、この部屋を訪れたのは、年末の忘年会のシーズンだった。 杉崎は大学入学後、颯が同じ高校の出身ということで、 なにかと声をかけてくれるようになった。 その日も、この辺では買えない故郷の食材を、援助物資と称し持ってきてくれたのだ。 その後ろに、隠れるように立っていたのが葉月だった。 杉崎は、大学の助手をしていた。 専攻も颯とは違うので普段はほとんど会うことがない。 時折、「飯どうだ?」と誘ってくれるので、颯は食費の節約にと、 ありがたくご馳走になりに行くのだった。 その食事の席に、いつからか葉月も一緒に座るようになっていた。 杉崎が助手をしている工藤教授のゼミの一員で、颯より二つ歳上の3年生だった。 付き合うようになった経緯は知らないが、 敬治さんが、よく大声で「おい、葉月!」と呼ぶ声が やけに耳に残っていた。
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