第2章 春疾風 ~花吹雪の中で~  

2/7

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
見上げる空は、どんよりと重たかった。 霧のような、小雨が顔にかかる。 杉崎は行ってしまった。 都心の大学で、講師としての新しい生活をスタートを 切っていることだろう。 最後に杉崎と会ったのは、彼の送別会の時だった。 葉月が自分から別れを切り出してから、初めて顔を合わせた。 「元気でやれよ。」 「敬治さんも。」 それが最後に交わした言葉だった。 拍子抜けするほど、呆気なかった。 今、思い出しても、笑ってしまう。 こんなものなのだろうか。 ****** 講師の話がきたと、杉崎から聞かされたのは、 年明け最初のゼミの準備に追われてた時だった。 田舎の土産を手渡し、 年末年始に杉崎が帰省していなかったことを知る。 「本当ですか?」 あまり感情を表に出さない杉崎が、素直に喜んでいた。 「ああ、この間、話を聞いてきた。」 「すごいですね。」 「工藤教授の口添えあっての話だが、  オレはこのチャンス、掴みたいと思っている。」 「おめでとうございます!」 葉月は自分のことのように嬉しかった。 ふと、これからはそう頻繁に会えなくなることに気づいた。 少しだけ顔が曇ったのを気どられまいと 笑顔を作る。 杉崎は、そんな葉月の様子を気にもとめず、話を続ける。 「・・・という訳だ。おい、葉月、聞いてるかぁ?」 「あ、はいっ。聞いてますよ。ほんと、よかったですね。」 「今の所からじゃ、通うのが大変になるし、引っ越しを考えてる。」 「え?」 急な話だが、それも仕方のないことなのだろう。 「じゃあ、これから部屋探しとか、忙しくなりますね。」 「あぁ、それが、大学の・・・方で、 紹介してくれた部屋があってな。そこに決めようかと思っている。」 葉月は、自分が知らない所で進んでいく杉崎の話に、 少しだけ焦りを感じた。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加