第1章

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子供の頃、嫌いだったのは母の鳴らす、パタパタというスリッパの音と、おかえりという言葉だった。高校生の私はそういったことが子供っぽくて嫌いで、いつもやめてと言って喧嘩になったことを覚えている。大人になって、高校を卒業してから、一人暮らしを始め、クタクタになって誰もいない部屋に帰るとなんとなく寂しく感じてしまうのはどういうことだろう? なんて考える。 「こういうのホームシックってやつなのかなぁ」 誰もいない部屋はとても静かで、パタパタとせわしなく台所を走り回っていたは母はどこにもいない。はっきり言うと私は母が嫌いだ。他人の秘密をベラベラしゃべるし、寝言、いびき、歯ぎしりはヒドい、テレビ番組を見れば必ず高笑いしてるし、いちいち私のやることに文句をつける。一人暮らしをするのだって最後まで反対したのは母だった。 別に死んだとかそういうわけじゃないというか、あのクソババアがそう簡単にくたばるわけがない。私は百歳まで生きると息巻くクソババアが死ぬわけがないと思う。私は母が嫌いだ。大嫌いだけれど、あのパタパタというスリッパの音だけは懐かしく思う。 新しい環境、仲良くなれない同僚や、嫌みな上司の愚痴を酒で飲み干す。友達が飲みすぎと忠告してくれたけれど、うるせーやいと突っぱねた。はぁ、私は高校生の頃、いや、子供のころから何も成長してない。嫌なこと悩みがあると一つのことに熱中し、そして身体を壊すのだ。その日、私は初めて酒の飲みすぎでゲロを吐いた。最悪な、まま誰もいない部屋に帰る。扉の鍵を開けて、玄関に寝転んだ。もう、なにもしたくない。このまま眠りたいとまぶたをおろそうとすると、 居間のほうからパタパタと懐かしい音が響いた。はぁ? 顔をあげてみるとスリッパをはいた母が呆れ顔で私を見下ろしている。 「なんで居るんだよ。クソババア」 「なにやってんのよ。クソムスメ」 憎まれ口に、憎まれ口を叩く。酔った頭ではうまく回転しない。 「あんた、自棄酒でもしたの? ほんとにもー、よく言うでしょ。酒は呑んでも呑まれるな。若いうちは自分の呑める範囲でトドメておきなさい。ほら、あれよ。きゅうせいなんとかになるんだから」 急性アルコール中毒と言いたいらしいが、その名前が出てこないらしい。どうせ、何かの雑誌の受け売りを自分のことこように語る母がうっとうしい。 「うるさいなぁー、私のかってって、離せよ!!
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