標的─1

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 女の肩からゆっくりと手を離して苦笑した男は、 それから遠くの空を見つめた。 ビルの上空を飛ぶカラスが、 遥か彼方へと離れて行くのが見える。 彼は置いて行かれるかのような錯覚に襲われた。  過去、 共に様々な研究を行った男は、 もうこの世にいない。  泣いているようにも見える彼のその横顔をちらりと見ながら、 女は口を開いた。 「事故死ですって。 車ごと崖から真っ逆さま」 「遺品は?」 「え……?」 「遺品。 何か無くなったりしたものは?」 「そんな話は聞いてないけど……あぁ、 でも……」 「でも?」 「彼、 息子さんがいたみたい。 中学生なんだけど……その子の元に送られたみたいよ」  博士に息子がいる──以前耳にした事があった。 あの頃はまだ小学生だったはずだが、 おそらくその時の子どもで間違いないだろう。  そう、 と小さく呟くと、 彼は女に背を向けた。  
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