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女の肩からゆっくりと手を離して苦笑した男は、
それから遠くの空を見つめた。
ビルの上空を飛ぶカラスが、
遥か彼方へと離れて行くのが見える。
彼は置いて行かれるかのような錯覚に襲われた。
過去、
共に様々な研究を行った男は、
もうこの世にいない。
泣いているようにも見える彼のその横顔をちらりと見ながら、
女は口を開いた。
「事故死ですって。
車ごと崖から真っ逆さま」
「遺品は?」
「え……?」
「遺品。
何か無くなったりしたものは?」
「そんな話は聞いてないけど……あぁ、
でも……」
「でも?」
「彼、
息子さんがいたみたい。
中学生なんだけど……その子の元に送られたみたいよ」
博士に息子がいる──以前耳にした事があった。
あの頃はまだ小学生だったはずだが、
おそらくその時の子どもで間違いないだろう。
そう、
と小さく呟くと、
彼は女に背を向けた。
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