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「どーいうつもりだよ、てめぇ」
――こいつ、か。
めんどくせぇのに絡まれて吐き出したため息は白く、煙草の煙なのか自分の息なのかもよく分からなかった。
2月の早朝、空はまだようやく白んできたところ。
サービスエリアの喫煙所には、他に人気もない。
他のやつらは車の中で爆睡したままか、トイレに立った数人は寒さから逃れるようにして早々に併設のコンビニへ駈け込んで行ったようだったが。
「珍しいじゃないか、お前の方から近付いてくるなんて」
俺と同じくここまでずっと運転してきて、喫煙者でもあるこの男が眠気覚ましと休憩を求めて喫煙所に来るのは当然と言えば当然。
だが『息抜き』になるような話し相手ではないのは互いに分かっているはずだ。
喧嘩別れ中のこいつの女を俺が横からさらおうとしたのは、ほんの2ヶ月前の出来事なのだから。
彼女の――、七瀬由紀の手前、表面上では確執を見せないようにしてはいるが。
本当はつるんでボードに行くなんて、この男もしたくはないに違いなかった。
「質問に答えろ。どういうつもりでこんなことしてんだよ」
「何の話だ? スノボサークルの管理人がボードの企画を立ててサークルメンバーをゲレンデに連れて行くのがそんなに不自然か?」
いつまでも好戦的な態度を取られて、内心はこちらも面白くはない。
この男――仁野は一体、結局2人が仲直りするきっかけを作って身を引いてやったのは誰だと思っているのか。
だがそれを隠してにこりと笑って首を傾げて見せると、仁野は舌打ちしながら灰皿を蹴飛ばした。
こんなガキ相手に、別に俺がムキになることはない。
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