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波の音と、少し離れたところにいる集団の喧騒。
それから、自分の心臓の音。
ほんの数分の、沈黙。
「……みどり」
静かに呼びかけ、意を決して唾を飲み下した音。
――まさかその音に混じって、お前がたった数分で立て始めた寝息を聞くなんて思ってもいなかったさ!
クソ、まさかの天然か。
緊張感返せ、畜生。
一瞬で毒気に当てられたが、気持ち良さ気な寝顔を見ていたらどうでも良くなった。
まあ、慣れない水遊びではしゃぎ過ぎて、疲れが出たんだろう。
待つと決めたはずなのに、危うく自分から口にしてしまうところだった。
今はもう少しこのまま――、みどりが、自分から素直になれるまで。
もう、7割8割は落ちてるんだ……間違いない。
次の機会が、きっとまたいくらでもある。
『色々』と言ったのはみどりの方なのだから。
頬にはり付いた髪を梳き流すと、みどりはふっと吐息を漏らしながら僅かに身じろいだ。
それがあまりにも無防備で、固唾を呑む。
――ベッドの上だったら、ヤバかったな。
そう思った瞬間、人目のある屋外だったことにハッと気付き、俺は慌てて彼女を叩き起こした。
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