第3章

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忘れていた記憶が蘇ってくる 一年前のちょうど今頃、チコと付き合い始めた圭介に言った 「妹を泣かしたら、絶交だぞ」 心にもないことを口にして、傷つき チコが嬉しそうに笑ったから、癒やされた 「それは困る。大事にするよ」 「嬉しい。圭介」 ぼくの一言で、甘い雰囲気を漂わす二人を見て 30秒前に戻れるなら、ガムテープで自分の口を塞いでやりたいと、本気で願った過去のぼく そうだ。思い出したからには、言うことは一つ 「うん・・・・・・、撤回する」 「良かった。ありがとう、マコ」 ほっと息を吐き出した圭介が、満面の笑みを浮かべた ・・・・・・嬉しい 過去に「嬉しい」と言って笑ったチコも、今のぼくと同じ気持ちだったのかな 少しだけ、胸が痛んだ 「こらこら、朝から通学路で遭難するんじゃない」 圭介の笑顔に浮き足立ったぼくは、その勢いのまま7Km先の学校へと向かい 残り2Km付近で力尽きていた ぼーっと道路に座るぼくの横に自転車を止めて、苦笑いしながら片手を伸ばし 「友樹~~~」 立ち上がらせてくれた 「ところで・・・・・・」 「うん。なに?」 「鞄は?」 荷台に座って、友樹の腰に手を回した状態で固まった カバン? 空っぽの手をぼんやり眺めるぼくを、不憫に思ったのか 「分かった。貸すよ」 「・・・・・・ありがとう」 学校に手ぶらで行くなんて、恥ずかしすぎる どこでもいいから隠れたい でも、そんなことすれば、友樹に更なる迷惑をかけてしまう 笑い者になる覚悟を決め、細身だけど、しっかり筋肉のついた腰に手を回した 「落ちないでね」 振り向いた友樹が、ぼくに笑いかける ありがとう、友樹 「うん!」 大きく頷いて、友人の背にギュッとしがみついた
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