不倫の代償

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 和彦は百合子の顔を睨みつけた。和彦の胸の中で急に殺気が頭をもたげた。百合子は床に横座りになったまま、和彦を見上げた。    彼女の目に再び、怯えの色が滲み出した。和彦の表情に見た事のない形相が浮かんでいた。それは百合子を凍りつかせた。  百合子が息を呑んだ。 「なに……なにするの……」 「警察には行かせない」  和彦はそう言うと、百合子の上に馬乗りになって、頸に両手をかけた。テレビでは軽妙なしゃべりで、アナウンサーがニュースを読み上げている。その声は和彦の耳には届いていない。    和彦の手に力が込められた。百合子は小さく声をあげた。躰が右に左によじれ、手足をばたつかせた。和彦の締め上げる腕に、さらに力が込められた。力むあまり、全身は震えていた。    時間にして数分だったが、和彦にはそれが一時間にも二時間にも感じられた。無我夢中だった。やがて、百合子の抵抗は弱まり、体はぐったりとなった。手足が床に投げ出され、顔の表情も失った。    和彦は肩で息をしながら、腰が砕けたように百合子の体から床に降りた。尻もちをついたように座ったまま、乱れた呼吸が沈まるのを待った。額から汗が流れた。  頭の中は空っぽだった。何も考えることはできなかった。目の前のテレビに視線が向いた。グレーのスーツを着た、男のアナウンサーが目に映った。ニュースは続けられていた。 「では、次のニュースです。昨夜、世田谷区○○町の路上で起きた轢き逃げ事件ですが、先ほど犯人が逮捕されました」  その言葉に和彦は、我に返り、画面に釘付けになった。
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