不倫の代償

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 それから二人は、うち解けて、仕事の不満や苦労話に花を咲かせた。すぐに男と女の関係になっていった。  和彦は42歳で妻も子供もいる。仕事は広告代理店の営業部長だった。大手会社との交流も多く、月に一度は出張に出る。それも当たり前のような仕事のペースだった。  それが原因で、家庭を顧みる余裕がなく、妻の美佐子ともよく衝突した。    喧嘩の原因はたいてい子供の教育問題だった。中学三年の息子と、小学六年の娘の進学問題で一悶着あった。  仕事で疲れて家に帰ると、夫婦でコミュニケーションを取る事もほとんどなかった。  美佐子は、子供たちの問題は自分が一人で対処できる事ではないから、和彦にも息子や娘と、よく話し合ってくれと言う。  そんな気力は残っていなかった。正直言って面倒くさい気持ちも強かった。    夫婦の間に、溝ができ始めていたのは確かだった。そんな事も手伝って、仕事帰りには酒が欲しかった。  それが百合子と知り合った店である。  美佐子の苦労の甲斐あって、二人の子供達はそれぞれ私立の高校と中学校に進学した。その問題が過ぎ去って、今は和彦の家庭も落ち着いている。    その点、百合子の方は身軽だった。以前に結婚生活はしていたものの、百合子も夫も仕事を持っており、互いにすれ違いが続き、とうとう離婚に踏み切ってしまったのだ。二人の間に子供はいなかった。それが百合子の唯一の救いと言えば救いだった。  百合子は40歳で、ブティックを経営している。店を好きなように運営し、仕事も楽しく、洋服のデザインなども自分で手掛けている。経営状態も安定しており、やはり離婚してよかったと、つくづく思っていた。  世田谷のマンションに一人で暮らし、とりあえずは何不自由なく、優雅な暮らしをしている。 「ねえ」  不意に百合子が口を開いた。車はすでに通りを外れて、世田谷区内に入っている。車の数も激減した。 「うん?」 「奥さん、大丈夫?」  百合子の言葉に和彦は小さく笑った。
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