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黒歴史に虹村が頭を抱えるのとほぼ、同時、ずっと絵を描いていた花見がとてんとその場に倒れ込む。まるで、スイッチが切れたようにその場に倒れた。
虹村は嫌な予感があたったと思ったし、焦りもしたけれど、
「寝てる?」
花見は寝ていた。気分が悪くなったわけじゃない。寝ているだけだ。安堵と安心で緊張の糸が一気にゆるむ。スースーと気持ちよさそうに寝息をたてる彼女が苦しくないように身体を起こして、座布団を枕にしてあげた。
(やっぱり子供ってよくわからない)
何でも切り捨てて、いらないと捨ててきた。最初に捨てたのは、子供らしさと幼さ。
いらない物をゴミ箱に、不要になった紙やゴミをクシャクシャに潰して丸めるように捨てた。虹村にとってそれは遠い昔だ。でも、無邪気に眠る子供は可愛いくらいは思えた。おでこを撫でながら、なんとなく花見のスケッチブックを見た。そこには綺麗な虹と、一面に咲き乱れる、人間の鼻が描かれていたことに、虹村が苦笑したのは秘密。
一日はあっという間だ。夕方になり、寝ぼけ眼の花見を迎えににきた。コシコシと目元をこすりながら社長にギュッと抱きつく、花見。
「すまんな、一日、迷惑をかけた」
「いえ、これも仕事ですから」
「お前は変わらないな。まぁ、そういうところは私は気に入ってるんだがな」
違うと虹村は言いかけた。変わらないんじゃない。変わったと、元の形がわからなくなるくらい変わった。
「けれど、少し心配だったんだ。仕事ばかりで他のことには見向きもしないお前が、なんだか見ていて辛そうだっから、なんて余計なお世話だったな。すまん、忘れてくれ」
「いえ」
社長の気づかいに、虹村は驚いた。
「余計かもしれないが、お前も仕事ばかりじゃなくて、ほかにも趣味とか見つけろよ。じゃあな」
バタンと扉が閉められ、虹村、一人になる。一人になり、彼女は胸を抑えた。眉間にシワをよけて、ブルブルと首を横にふるい、
「さ、寂しくなんかないしっ!!」
とパンパンと頬を叩いたのだった。
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