胎動

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 雑踏。  ターミナルの中央にそびえるビル群の、ど真ん中を貫通するように、モノレールは西・北・南に向かって走っている。モノレールは環状のルートを上りと下りの二車線で、短い間隔で何台もぐるぐると走っているため、待ち時間はほとんどない。東に走ってないのは、仕方のないことだろう。あんなところに住んでいる連中に、モノレールの運賃を払えるとは思わないからな。  私は改札のパッドに指を押し当てた。ごっそりとマナを吸われるのを感じる。マナを吸われる感覚を「脱力感」なんていう奴がいるが、私はむしろ、排泄の時の感覚に近いと思っている。この前同僚に話したら、笑いながら同意してくれた。  列に並び、待つまでもなくやってきたカプセル・セルに乗り込む。同乗した9人は全員男だ。むさくるしいぞ、畜生。カプセル・セルは保安上の理由から、一度に10人が乗り込むことになっている。一度の輸送で運ぶ人数が多すぎれば、非常事態に犠牲者が増えることになる。また、痴漢やスリも増える。逆に少なすぎると、強姦や殺人の恰好の舞台になってしまう。だから、その中庸で10人なのだ。 「当モノレールをご利用いただき、ありがとうございます。車内での事件・事故につきましては自己責任となっております。ターミナル中央発、南方面行き発車いたします」  言っている内容はぞんざいだが、いたわるような優しい女性の声がスピーカーから流れ、モノレールは静かに動き始めた。内容と口調にギャップがあるのはきっと、文章を考えたのが事務員のおっさんで、声をクリスタルに入れたのが心優しい女の子だからなのだろう。女性歌手が「愛しくて」とか歌ってても、本当に歌詞を考えたのは太ったおっさんっていうのと、同じ現象だ。  私の益体もない思考を置き去りにするように、モノレールは加速していく。改札でガッポリと吸い取ったマナをここで使うわけだ。やがて、景色が尾を引いて流れるほど加速したときに、私は信じられないものを見た。  窓ガラスの外から、少年が覗き込んでいるのだ。目が合ったまま、数秒の時が流れた。  そう、数秒の時が流れたのだ。景色が尾を引くほどの速さで走るモノレールの中の私と、外にいる少年の目が合ったまま。  少年の口角が吊り上った。そして、その口がゆっくりと動く。 「み・え・る・の・か」  私は、視界が白くなっていくような感じがした。
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