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才能。
あるとないじゃ、果てしなく違う。ちょっとあると、たくさんあるじゃ、果てしなく遠い。
俺は首から下げられたドックタグを握りしめた。「EAST 木島セン」の文字が刻まれている、薄っぺらいくせにやけに硬い、金属の板だ。指で押しても曲がらない。窮屈だ。
人間は強い生き物だ。グリフォンや巨鯨程度の魔物なら、魔法使い数人いれば易々と撃退できる。といっても、それはあくまで「魔法を使える」人間の話だ。
もっとも、近年では魔法を使えることを人間の定義とする風潮が出てきているから、わざわざ「魔法を使える」だなんて付け足さなくても、人間は強い生き物なのかもしれない。
それに比べて、魔法を使うもととなるマナを体に通せない俺らスラムの住人は、めちゃくちゃ弱い。もう、奴隷としてすら必要とされないくらい弱い。簡単に死ぬ。
一応仕事と言えないような仕事は、街に行けばある。魔法の射撃練習の的とかな。これはなかなか割がいい。思いっきり殴られるのと同じくらい痛いのを我慢すれば、家族に1か月食わせてやれる。火だるまになって死ねば、家族に1年食わせてやれる。
死ぬだけで金になるんだから、こんなに美味しい仕事はないだろう。スラムの人間は何もしなくても、勝手に死んでいくのだから。
盗むにも、東の住人は弱すぎる。自分たちで生活の糧を得るには、このターミナルの環境は厳しすぎる。なにせ土が、西・北・南にしかないのだ。農業、畜産ができないんだから、食べ物がそもそも作れないのだ。
でも、こんな生活。長く続くわけがないよな。
弱者は弱者であるべくして弱者だ。全ての人間が弱者を望むから、社会は弱者が這い上がれない仕組みを作る。でも、当の弱者はやってらんねぇよ。不満しかない。
「セン、お前の分だ」
背後から声を掛けられた。ぺたり、と裸足が金属を踏む音がする。俺は振り返った。
「ザキ。無事だったのか」
「ああ。鉄の刃物が手に入ったからな。鉄ってすごいね、グサってやったら、あの魔人が簡単に死ぬんだ」
俺はザキと呼んだ、人懐っこそうな笑みを浮かべた少年から、指先ほどの紅い結晶を5個受け取った。
「人間」が俺たちを人間と認めないように、俺たち東の住人は「人間」のことを、「魔人」と読んでいる。魔法が使える動物が魔物なら、魔法を使える「人間」だって魔物だろう。なにせ「人間」を殺せば、魔結晶が剥ぎ取れるのだ。
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