胎動

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 魔結晶は、マナを吸収し、一時的に貯蓄してから吐き出す器官だ。肺が空気を出し入れするのによく似ている。これは生物の器官なのに、まるで無機質な機関のように、それ単体でも独立して動き続ける。  俺はザキに向ける目を細めた。 「今回の派遣で、何人殺った?」  ザキは俺の隣に腰かけた。ターミナルの断崖絶壁がよく見える、この謎の金属の塊が、俺たちの特等席だ。  ザキは口元を綻ばせ、高速で流れ去っていく雲を見つめる。 「まあ、数えるのも嫌になるくらいかな。今回の派遣で十分な魔結晶が確保できたらしいから、そろそろ時期は近いかもね」  ザキの口ぶりに罪悪感はひとかけらもない。ザキが殺したのは同じ人間なんかじゃないからだ。ヒトとゴキブリのように、根本的に違う相手を殺しても心は痛まない。 「指示は誰が出すんだ? モトさんは?」 「死んだ」  ザキはあっさりと、何でもないように言った。 「引き継ぎは?」 「セン、お前になった」  もちろん俺も、何でもないかのように流す。どうせ、死ぬために生きているのだ。いずれ失われるものを今失おうと、それほど惜しくない。  それでも、自分がリーダーに推挙されたというのは驚きだった。 「なんで俺が?」 「モトさん死んだ今、スラムで一番稼いでるのはセンだ。それに、センは一番腕が立つからね」 「そうか」  俺は右手を何度かぐーぱーさせた。骨と皮しかないような腕に、青白い血管が浮かぶ。機械の配管のようで、生き物じゃないみたいだ。 「死んだののタグプレートを集めといてくれ。明後日決行する」 「わかった、みんなに伝えておく」  俺の言葉にザキが立ち上がった。少し叩いただけで砕けてしまいそうなくらい細い足首が、俺の目の前にあった。  明後日で終わりだ。痛いのも、ひもじいのも、誰かが死ぬことも、だ。  いつのまにか、俺の右手はドックタグを握りしめていた。西から唯一与えられたもの。忍従の証。
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