【5】蛇の目 

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「人のこと――何だと思ってるの」 「君は女だ、紛れもない事実だろう」 「当然だわ!」 「なら、もう少し自分の身の回りに気をつけることだ。今日のようなことはこれからも起こりうるし、今まで何もなかったことの方が奇跡に近いんだ。うちの学校は女が圧倒的に少ない、そして我々の年代は、女であれば誰でも良いのだからな」 「御仁の仰る通りです」木幡が引き継ぐ。 「あなたは商売女のようなスレたところはまったくないが、男の気を引く力を持ってらっしゃる。犬に噛みつかれても良いというのなら止めませんが、御身大切になさることですな」 では、これで、と言って去る木幡の後を追うように、他の男が数人ついて行く。 もし、慎に止められなければ、私はどうなっていたかわからない。そして、木幡らもただ見ているだけで傍観するだけ、見世物になっていたんだろう。 貞操なんて――どぶに捨ててしまった自分、初心な恥じらいなど無縁になってしまったけど。晒し者に誰が望んでなるものか。 「残念だが、学校内で語られる君の身の上話を知らないのは、君と武君ぐらいなものだ」 「じゃ、私が……結婚したことも?」 「ああ」 別に隠すことじゃないからいいけど。 「柊山先生ね」 「だと思うか? 先生が一学生の過去をわざわざ広めて回るようなことをすると?」 思えない。 彼女は首を横に振る。 「昔から言うだろう、壁や天井に目と耳があると。うちの学校は随分と安普請で、中での会話は外に筒抜けになる。立ち聞きする者の口をふさぐことはできまい? 今後は話題と話す場所に気を使うことだ」 今さら、もう隠せるものはない。終わったことは仕方無いもの。 けど、幸宏に彼女の過去が伝わっていないことに、何故か安堵の気持ちになった。 そしてもうひとつの過去、もしかしたら慎には気取られたかもしれないが、福留に知られた、彼女のもうひとつの過去。 もうどこまで広まっているのだろう、今日のこともある、福留もおそらく黙ったままではいまい。 時を巻き戻して、なかったことにしたいけれど、もう無理。 バカなことをした、と唇を噛んだ。
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