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「堅気になれ、と真正面から切り込まれました」
「彼らしいな」
男ふたりはほぼ同時に忍び笑いをした。
「お互いの立場の違いは長年過ごしてきた流れのようなものです。今もご理解頂けているとは言えませんが。で、この方は武先生のいい人ですか?」
「そう」
「――違います」
幸子はふて腐れたように答えた。
「ただの同級生です」
「そうかな」
「そうよ!」
慎に食ってかかりながら思った、的外れな噛みつきだけど。彼と私は何の関わりもないんだもの!
「武君が軽蔑するって――言ったわよね」
幸子はぽつりと言う。
「ああ、言った」受けて慎は答えた。
「何故なの」
「福留は、武君に心酔しているんだよ、崇拝の域に達していると言ってもいい、彼に近づこうと必死なんだ」
「それと、今日のことと。どう関係あるの。別に武君が知ったところで、影響はないと思うんだけど。何か問題があるの」
「心酔している相手に軽蔑されることほど応えることはないだろう?」
「柊山先生に拒否されるより?」
「ああ、おそらく。それに」
「それに?」
「君は武君の思われ人だ」
「はあ?」
素っ頓狂な声を上げて、幸子はまじまじと慎の顔を見上げた。
涼しい顔して立つ学友は、冗談のかけらもない。
「武君の側にいる、小賢しい女を排除したい。けれど手段選ばず手を出したことがしれたら、武君は怒る以前に軽蔑するだろう。それは奴を心底傷付け、立ち直れなくさせる。まあ、仮定ではあるが、福留も君に懸想してるのかも知れん。その方が動機としてはわかりやすいか。彼より先に手をつけて劣っている自分に溜飲を下げたいという」
どっちにしてもいい迷惑だ。
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