【5】蛇の目 

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「私は依怙贔屓はしない」と宣告した柊山の言い分はどこまでも正しかった。 男や女関係なく監督下の学生を指導し、評価した。 アカデミックな世界は例え大先生であっても、いや、大先生だからこそ、妬みを生徒にも向ける人物がいる。 学生は先生にまずは気に入られるところから始め、信頼を得るところから学究生活が始まる。 事実、他の指導教官の中には服従を求める人もいて、学業以外の所で苦労している学生達を端から見ていた。 柊山はリベラルな人だと思った。 帝大から来た、白鳳の中では風変わりと囁かれても仕方のない教授。よくもこの人と小父が知り合いでいてくれた、と幸子は思わずにいられない。 けれど、柊山は個人の資質より、個人を取り巻く環境を重視するという。彼女が大学に籍を置けるのも小父の紹介があったからだと、初対面の日もその後も何度も同じことを言われた。 人を評価する物差しって何だろう。 学生なら学業が第一だとばかり思っていたが、そこに色がつくのはどうやら避けられない。 人は自分が好きな人を大切にしたがる生き物だからだ。 性別や相性では判断されていない自分は有り難いと思わなければならない。 ――そう、私は恵まれている。 だから、日増しに強くなる、彼女への風当たりぐらい自分で解決させないと。 廊下ですれ違いざま、これ見よがしに目配せされたり、わざと歩きにくく幅寄せされ、身体を触られるような痴漢的な行為も受け流さないと、と無理矢理自分に言い聞かせる。 私が男だったらよかったのに。 少なくとも、身体を触られるような、侮辱的な扱いは受けなかったはずだから。 女って。――それだけで不利だ。 いくら学業で好成績を挙げても、彼女の株は全く上がらないし、つまらない苛めも減らない。
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