【5】蛇の目 

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他の男子学生が見せる陰湿さとは無縁なのが、幸宏と慎だった。 彼らふたりだけは違う。幸子を旧知の友人のように扱う。 気の置けない間柄のように過ごせる。 学業もきわめて優秀で、目標にすべきふたつの山だ。 彼らふたりと肩を並べられないと、公平な柊山の目には留まらないし、ここに生きる場所を求められなくなる。 けれど。 同じ息のつまる閉塞感の中に身を置くなら、下らないいじめより高みを目指すほうが何倍もマシ。 先日提出したレポートの評価点を見て、とりあえずの及第は取れたけれど、やはりというか、納得の高得点だった幸宏のレポートは、ひとつの芸術作品の域に達していた。 文字の選び方、文章の組立方、学説への探求と奥深さ、どれを採っても寸分の狂いもなく、完成され、魅力的だった。 対する慎も、幸宏とは別の視点から切り込み、こちらは鉈で断ち割るような重さと厳しさがあった。 勉強の量では彼らに負けないと思っているのに、私とは格段の違いがある。 この差は何? どこから生まれるの? 彼らと私はどこが違うの? この差は、埋められるの? 彼女は、くやしいながらに自分の負けを認めていた。
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