第1章 西嶋順之助

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「死禁城」 私の名前は西嶋順之助。体重は66キログラム。身長は178センチ。長身と呼べるかもしれない。  職業は、大日本帝国陸軍の軍人だ。多くの兵士がそうであるように徴兵され、強制的に軍人なったのではない。志願して、軍人になった。    ただ、軍人といっても、一般の兵士のように、常に銃を担いで戦場を駆け回るような事はしない。  それでは、銃を持ってドンパチやらない軍人が何をするかだって?    戦略域内の情報収集、それが私の仕事だ。  特務機関に所属するゆわいる情報士官だ。司令部が作戦を立案、実行する際に必要な情報の供与と分析を助けるのが、主な仕事だ。    但し、ひとくくりに情報といってもその量は膨大だよ。  作戦域の自然環境、敵対組織と友好的な組織の状況、それに現地住民が何を欲しているか、足で歩き、人びとと会い価値のある情報、そうでない情報を収集していく。    まあ、聞こえは良いが、とても地道で地味な仕事だ。やる事はとにかく多い。    しかし、情報士官の数は少なかった。なぜかって? 考えても見て欲しい。軍隊に志願して行こうって連中はみな、血気盛んな連中ばかりだ。彼らは夢見ている。砲弾の下をかいくぐり、戦友と共に押し寄せる敵を撃ち倒し、勝利を勝ち取り、祖国の旗を占領地に突き立てる。    軍のお偉いさんはもとより、国家や国民、親戚家族、想いを寄せる好きな子からだって、英雄と呼ばれて慕われるんだ。男としてこれ以上の幸福なことがあろうか。ところがどうだ、情報士官はというと、どんな凄い仕事をしたとしても、誰にも自慢することはできない。絶対に。もしうっかり話でもしたら、私も、話を聞いた家族や友人たちも酷い目にあう事になる。    じゃ、私はどうかって?   正直に言うと、愛国心に満ちあふれた名誉ある軍人になろうとは思わなかった。    私の性格を知る者はみな、なぜ私が軍人などになったか不思議に思っているらしい。  少し、自分の事を話そう。
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