第1章 西嶋順之助

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 私は岡山県と広島県の県境にある瀬戸内海に面した小さな盆地の農家の家に生まれ育った。    幼少の頃は自分でいうのも何だが、女の子たちからは良くモテた方だった。と記憶している。    今はどうかな? 街で見かけた女性をお茶に誘って、OKサインが貰えるほどには自信がない。    もちろん、そんな事はしたことがないし、当時の日本は、独身前の男女が気軽に会話できる風潮にも無かった。    日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦と十年毎に戦争やった時代だ、社会が男に求めるのは硬派で勇敢な兵士象だった。    私には三つ上の兄が一人と二つ上の姉、十ほども年の離れた妹がいた。家は貧しく中学を卒業した兄と姉はすぐに家を出た。兄は広島にある海運会社に丁稚奉公として、姉は当時はまだめずらしかった洋裁工場へとそれぞれ就職した。  中学に上がる前の私は、近所の子供たちを集めては、毎日のように山河に踏み入り、川魚やクワガタ虫の採集に夢中になっていた。    中学に上がった頃には、山や川に入って遊ぶことは無くなり、代わりに勉学に励むようになっていた。特に、地理や歴史が好きだった。山に囲まれた狭い盆地に育った私を、外の世界へと導く冒険の書のよう気がしたからだ。  あの頃の私は、真綿が水を吸い込むように学んだ。それこそ、学校では学ばないことまで、様々な知識を吸収することに取り付かれていた。  知識を学ぶというのは、世界の謎を解き明かすためのカギに思えたからだ。  世界の謎って何んだ? 私にも分からない。  人類はいつどこで誕生したのか? 宇宙に終わりはあるのか、あるとしたら宇宙の外にはなにがあるのか?  そんなことかもしれないし、解明されていない現象や地図にない土地、未確認生物など。  そう、すべては、世界の謎の一部なのだ。  そんな世界の謎の追求に夢中になるにしたがい、私の学業の成績も上がった。  中学を卒業する頃には学区内一の成績を納め、先生方の推薦で神戸にある高等中学校へと進む事ができた。
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