side タケ

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「寒くねえ。……慣れてるし」 慣れるなよ、そんなのに。 温め方なら 俺は知ってるよ。 口には出来なかった。 俺には、出来なかった。 「――お前、うち来い」 「え?」 「そのままじゃ風邪ひく」 お前の家に行ったら お前が俺を温めてくれるの? 俺がお前を 温めたかったのだけど。 「行く」 断る理由なんか どこにあっただろう。 傘はもう 棄ててしまった。 自分からは言えないクセに 口になど出来ないクセに。 どういうつもりかなんて 聞けもしないクセに。 前を歩くお前の背中にはり付いた服が その下の線を浮き上がらせていた。 伸びかけた手を抑えるのに 俺は必死だった。
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