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「まあ、そうだよね。世良にとってはそうだよね。しかも私の方から抱きついてきたって、世良は思ってたみたいだし」
世良にとっては遊びの簡単なキスでも、私にとっては大切な初めてのキスだったから。
少し、困らせてやってもいいんじゃない?
「階段で足を踏み外して抱きついただけなのに、いきなり強引にキスされて、すごくびっくりした」
世良を見上げるようにして、さらに言ってみる。
「私、あれが初めてのキスだったのに、驚きのせいで感動も何もなかったよ」
世良が気まずそうに視線を外した。
世良、困ってる。
ちょっと、楽しい。
「キスって、気持ち良くってドキドキするものと思ってたのにな」
なんて、文句を言ったりしてるけど。
たとえあの時のキスが世良にとっては遊びのキスでも、今は、私の初めてのキスの相手が世良でよかったって、ちゃんと思ってるから。
これ以上いじめるのは、おしまいにしてあげよう。
「じゃあ、してみる?」
下を向いたまま、世良が小さく呟いた。
「え?」
ゆっくりと、世良が顔を上げる。
「本気のキス」
心臓が、ドクンと音を立てた。
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