茜色の逢瀬

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昨日と同じ、夕暮れ時。 いつもはわくわくするこの時間を、今日のわたしは憂鬱な気分で迎えた。 海面へ近づくと、今日はどんよりと濁っている。 そうか、地上では雨が降っているのか。 ならば、きっと昨日の人間は居ないだろう、と僅かに期待を込める。 雨の日には、この入江にはほとんど人間は近づかないのだ。 警戒しながらも、海面にそっと顔を出し、桟橋を見るが、やはりそこに人影はない。 人間共の待ち伏せもないようだ。 そうなれば、長居は無用。雨で茜色に染まる世界も見れないし、早く住処へ帰ろう。そう思った時、背後で激しい水音が上がった。 振り返ると、ずいぶん遠くに転覆した小舟が浮いている。 理解するのに、数秒掛かった。 誰かが、海へ落ちた! そう思った時には身体が勝手に動いていた。 ぐんぐんとその小舟まで泳ぎ、辺りを見回すが、雨のせいで視界が悪い。 もう沈んでしまったのだろうか。 少し深く潜ると、視界の端に黒い物が映った。 黒い髪に、黒い服の人間。 直感的に、昨日の人間だと思った。 彼の身体に腕を回し、海面へと力いっぱい泳ぐ。 なんとか海面まで行って、彼の頭が海上へ出るように身体を支え、岸へ向かって泳ぐ。 人間は、水の中では呼吸が出来ないのだ。 なんて面倒くさい種族だろう! もはや、豪雨といえる雨のせいで、水中も海上も変わりないのではないかという気がしないでもないが、とにかくどうにか無事に岸まで辿り着く事が出来た。 だが、水から出ると、浮力の助けを借りる事が出来ず、彼の重みが思いっきり身体に掛かる。 もういっそ放り出したい気分になったが、ここまでやったからには助かってほしい。 結局、彼を砂浜の波の届かない所まで運んだ頃には、わたしの方が満身創痍だった。 目を瞑り、ピクリとも動かない彼の口元に耳を寄せると、どうにか呼吸はしている。 ひとまず安心したが、さて、これからどうしよう。 このまま放置して帰るわけにもいかない。 雨は小降りになって来ているとはいえ、このまま置き去りにして誰にも発見されずに死んでしまったら、助けた甲斐がない。
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