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あの人間を助けてから3日が経った。
この3日間は自重して、海面付近には行かなかった。
あの人間を助けた時に、腕の鱗が傷ついていて、それを癒やすため、という意味合いもあった。
とりあえず、少し間を置いたし、今日は海上へと行ってみよう。
決して、あの人間が心配だからではない。まぁ、あそこまでしてやったのだから、生きていればいいな、とは思わなくはないけど。
いつもの通り、夕暮れの時間を狙って海面へと向かう。
深海にいると、地上の天気がわからないから、茜色の世界が見られるかどうかはわからない。
一応、用心のために入江から離れた場所に、そっと顔を出す。
すると、例の桟橋に人影が見えた。
遠くて良くわからないが、あの時の人間……のような気がしないでもない。
近づくのも躊躇われて、ただひたすらその人間の動向を観察する。
時々辺りを見回したり座ったりしていたが、空が紫に変わる頃、その人間はようやく腰を上げ、何かを足元に置くと入江を後にした。
それから暫く様子を見ていたが、あの人間が戻って来る気配はない。
わたしは、そっと桟橋に近づき、あの人間が居た場所を覗き込んでみる。
そこには、『助けてくれて、ありがとう』というカードと共に、キラキラと輝く石が置いてあった。
「きれい……」
光る珊瑚とも、真珠とも違う。もしこれを、太陽にかざしたらどれだけ美しいだろうか。
わたしは海底の住処へと戻り、貝殻で出来た宝物入れにその石をそっと入れた。
そして、今日見た人間は、やはり先日助けた少年なのだと気づいた。
生きていたのか。良かった。
その日は、眠るまで何度も石を取り出しては眺めて過ごした。
明日は、早めに海上へ行こう。
そして太陽にこの石をかざしてみよう。
そう決めると、宝物を抱きめるように丸くなって眠りについた。
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