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やっと諦めた。
しかし、オッサンは何食わぬ顔で新しくグラスを取り出しては琥珀色の液体を注ぎ、俺の前に差し出してくる。
「……なんだ、これ?」
「見て分かんねぇかよ、酒だ酒。その味も知らねぇで消えるってのはどんなに荒んだ人生でも損してやがる。せめて手向けに飲ましてやるってんだ。上物だから心して飲めよ?」
「未成年に酒なんか勧めるなよ」
「良い経験だろ?」
黙っていれば深みのある良い中年だというのに、未だに悪戯の楽しさを忘れられないような笑顔を見せてくる。
あまり相容れないタイプではあったかも知れないが、これはこれで巡り合わせに恵まれた気がしなくもない。
「じゃあ、貰う……ありがとな」
「おう、いっとけ」
グラスを持ち、一気に呷る。
苦さしかない味が口の中にこびりつき、胃から焼けつくような熱気が込み上げるのを、どうにか顔をしかめながら堪える。
……が、しかし突如として全身に突き刺さるような痛みが走り、腰掛けていた丸椅子から思わず転げ落ちる。
「……あぁ、言い忘れてたが、此処の酒は全部俺の血だ。それを飲んだお前、人間の霊魂はより強く変質する。この神域では消滅しない程度にな」
「……な、騙しやがった!?……ってか、アレはどう考えてもアルコールじゃ……」
「いや、酒は俺の血液だ。異論は認めん。それに俺、言ったじゃん。選択肢なんかねぇってさ」
なんだそのアル中理論!?
しかも、やり方が汚すぎる!?
「いや、むしろ初志貫徹だろ……」
「……くそ、ふざけやがって…………」
ヤバい。
この痛みはかなり辛い。意識が遠退きやがる……。
「そんなわけで、目を覚ましたらめでたく異世界デビューだ。男、魅せてこい」
世界の管理者との邂逅。
その結末として俺は一服盛られる羽目になったのである。
……訴訟も辞さないという感情を初めて覚えた瞬間でもあった。
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