第2話 現実は非情である

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 意識が漂う感覚。  重力さえ感じられない、自らの姿勢や位置さえ不明確な、宙ぶらりんのなかで、僅かに鼻腔をくすぐる刺激だけを認識した。  遠い夏の日に嗅いだ、朧気な記憶に残るにおい。  それは鮮烈に嗅覚に訴える強さを持った…… 「…………臭っ、くっさ!?」  回想終了。  夏場に放置した生ゴミのような悪臭に包まれての、清々しさのカケラさえない目覚めだった。  おまけに周囲を建物の外壁に挟まれた狭苦しい路地裏というシチュエーション。どう見ても普通じゃない。  屋根の隙間から覗く空は地球と同様に青。雲一つない快晴で、太陽は真上にある。  果ては重力を無視して浮遊する白いアーチ状の残骸や、日中に視認できる不思議な天体さえ無ければ、異世界だと確信せずに済んだかもしれない。  どうやら、冗談抜きで異世界に来たらしい。方角を空で確認出来るというから見上げてみたが、まさか現実を叩き付けられるとは思わなかった。 「……しかし、着の身着のままで送り出すかよ……あのオッサン、ホントにイカれてやがる……」  どういう神経をしているのか疑いたくなるが、今は自分の身の振り方を考えるべきか。  生前のしがらみから解放されたとはいえ、今度は知識さえ碌に与えられなかった見知らぬ世界。死ぬ理由などもうないが、オッサンの話だと俺は【簡単に死なないようになっている】という。  こんな街中では判断に困るところだが。
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