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私が口を開くよりも先に、歩羽がそう言った。
向けられる鋭い目付きに負けじと歩羽も目を細める。
静まり返る教室はどこか薄気味悪い。
「…田中と付き合ってんのは俺だよ
文句あっか?」
高い所から私達を見下ろす男は、獣の様に悍ましい殺気を放っていた。
目を見開いて動きを制止する私に「殺すぞ」と語っている雰囲気である。
それでいて男が言った言葉はあまりに拍子抜けするものだった。
歩羽と私は目を合わせ、次の時には面白おかしく笑い転げていた。
どう見たって嘘の話。
信じるわけがない。
「あはははは!!
隆次と田中さんが!?何!?」
「恋人だってさ、くるみ!!
やっばいって!!
隆次のセンスやばいって!!」
ゲラゲラと下品な笑いに、他のクラスから人が集まってきた。
私達に集中する視線は全て同じ【嫌悪】。
それでも笑うことを止めない私達2人は、目に溜まった涙を拭いながら男を指差した。
「はい、バカ決定ー」
「言ったからにはマジで付き合えよ
最終的には結婚な」
「あ、勿論デキ婚ね」
「あはははは!!
隆次と田中さんの子供とか見たくねー!!」
鞄を肩に掛けて、教室を後にした。
擦れ違う生徒達に鬱陶しさを感じながら、敢えて素通りする。
どれも興味がないから。
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