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「本当ならこんなこと他人(ひと)に頼みたくなどないよ。自分の娘の事だもの。だけど僕があの子に出来るのはここまでだ。だから、……お願い出来るかな?」
最後はとても言いにくそうに、絞り出したという表現が一番合う言い方だった。いつも微笑を湛えているような柔和な顔が歪んでいた。
「もちろん。砂雪は私が守ります。」
ディーリスは今度こそはと己の心の中で付け加えた。契約の中では役立たずだった。だからこそ人の世での出来事で後れをとるつもりはなかった。
「ありがとう。」
コル・フォルトはふと表情を和らげそう言って深々と頭を下げた。
そんな事があったのはほんの数日前だ。だというのに今、コル・フォルトはディーリスから砂雪が見えないよう隠している。彼から見えるのはコル・フォルトの背中くらいだ。時々ちらちらと銀の髪や白い手が見え隠れする。
あのやりとりはいったいなんだったのだとディーリスは言いたくなる。あんたは俺に砂雪を託したんだろう、と。
「あのね、父さんと母さんは何時までここに居れるの?」
コル・フォルトによる説明は終わったようだ。少し不安を滲ませた砂雪の声が聞こえた。
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