Act.2 零了

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「……なんで」 「?」 「なんで……助けてくれたん? 今日も……こないだも」  そんな風に彼に問いただせば。  一瞬言葉に詰まった彼が、あからさまにそっぽを向いた。 「……この間、オレが失敗したと言ったから、他の人間が……お前を殺すために、送り込まれた。……だから、止めにきた」 「……なんで、止めにきたん?」 「…………----お前には、恩があるから」 「……恩?」  まだそっぽ向いたままの彼が、ぶつぶつと呟く。  その横顔に見覚えがあるような気がして、じっと見つめた。 『----ありがとう』  頬張ったあめ玉で頬を膨らませた、綺麗な顔の少年が不意に頭をよぎって。 「----あれ?」 「……お前に、昔……死にかけてたとこを、助けられたことがある」 「……ぇ?」 「まだ仕事も半人前の頃。一人ではぐれて……腹減って。でも、金もないどうしようもないオレに、お前が飴、くれたんや」 「……ぁ……」  小さな体で、必死になって。けれど途方に暮れた瞳が、うろうろと周囲を彷徨うのを見つけて、駆け寄ったのだ。 『はい、あーんして』 『ぇ?』 『あーん』  驚きに目を見張るのを無視して、ポケットから取り出した飴を、彼の口に放り込んで。 『おいしい?』 『……ぁ……』 『大丈夫? 一人? 迷子?』 『ぇ……ぁ……』 『うち来る?』 『……っ』  ふるふる、と首を横に振った少年が、ありがとう、と笑ってくれたのは一瞬。  パタパタと走っていった小さな背中を思い出して、目の前の彼を見つめる。 「……あの日、お前がオレに食ってかかってきた時に、思い出した。あめもろた」 「……」 「だからお前は殺さんし、殺させへん」 「----っはは」  くくくっ、と。思わず笑ってしまった。  金のために洋樹を殺した男が、飴の恩でオレを助けてくれるという。  複雑な想いの中で、無表情のままキョトンとする彼を見つめて。 「ありがとう言うたもんか迷うけど……助けてくれてありがとう」  そう笑って見せたら、彼の無表情がまた、一瞬だけ笑った気がした。
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