Act.1 飛電

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『逃げろ! 悠!!』  不意に蘇ったのは、洋樹の声だ。  --------何も、考えられなかった。  気づけば、足が勝手に動いて、走り出していた。  どうして。----どうしてどうしてどうして。  震える足を、縺れるように動かして、走る足元に。  いくつもの銃弾が飛んでくる。  哀しみ。戸惑い。怒り。  ----何より。  死にたくないという恐怖だけが、体を動かしていたのだと思う。  何度目かの銃弾が、とうとう左足を捉えて、その場に転んだ。 「無駄弾使ったら怒られる」  ポツリとぼやいた男の、動くな、という感情のこもらない声が、真上から。  やけくそでもがいて、振り返ったら。  相変わらずの無表情が、オレを見下ろしていて。  銃口が、オレの目の前。  それでも諦めきれずに。  目尻に溜まった涙を拭いもせずに、男を睨み付けていたら。 「--------お前」  ハタ、と。何かに気付いたように。  目の前の男が、一瞬、顔を歪めて。  くそ、と。口の中でモゴモゴ呟いた男が、オレに向けていた銃口を逸らす。 「……ぇ?」  元に戻ってしまった無表情が、それでも少しだけ苦々しく歪んでいるような錯覚。  オレを無表情に見下ろしながら、何かを考え込む様子を見てとって、ゆっくりと立ち上がる。  油断なくこちらに意識を向けている男が、再び銃口を向ける前に。  近くの部屋に、駆け込んだ。  無駄かもしれないと思いつつ鍵をかけ、カタカタと震え始めた体を抱き締める。  赤い血溜まり。向けられた銃口。冷たくて綺麗な無表情。  狂うかと思う心を繋ぎ止めるのは、洋樹の怒鳴り声だ。  逃げろと叫んだ声が、どうにか正気を保ってくれる。  ぶんぶんと頭を振って、何度もフラッシュバックする血溜まりの光景を振り払う。  生き残る手立てを考えなければ、と思った矢先。  また、ドアに穴が開いた。
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