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普通に歩く倍以上の時間をかけて辿り着いた先で。
洋樹は、苦しみに眉を寄せたような表情で、事切れていた。
「----っ、……洋樹っ!!」
教会の前に置き去りにされていたという自分を拾い上げ、育ててくれた恩人。
神に仕えながらも、どこか飄々とした雰囲気が、教会全体から見れば異端と見なされがちだったけれど。
近くに住む村人達から慕われていたのも事実だ。
そして、いつもオレに、厳しくも温かく色々なことを教え、導いてくれた。
----そんな人が。
大切な人が、一瞬にして命を奪われてしまったのだと。
その事実が、今になって胸に突き刺さる。
「洋樹……っ……洋樹!」
起きて、と。
まるで幼子のように洋樹を揺さぶり、側で呆然と座り込むことしか出来ない。
ザー、と。外から強い雨の音がして、ピカリ、と閃光が走る。
ビクリと体を竦めて、洋樹にすがり付くのに。
冷たくなった体は、抱き止めてはくれずに。
じゅくじゅくと自分の服が、洋樹の血を吸い上げていく感覚だけが、やけにリアルに感じられた。
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