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「今日は、お前たちの手解きのために特別なゲストが来て下さっている!」
教官は微妙に、その人物の名を言うのを粘っている。
教官が粘るのは珍しいから、これは期待できそうな人物が来たと予想できる。
「静聴せよ!
今日の臨時教官は、かの《終戦の英雄》!!」
────────!
候補生たちの間で動揺が走る。
《終戦の英雄》─────3年前の事件で、世界を救ったとも言われる伝説の存在。
まさか、英雄である彼が?
誰もが、一瞬耳を疑った。
しかし、それを覆すように教官は続ける。
「ユウヤ・ドラングロード様だ!!!」
一瞬の静寂の後、教官室から訓練場に続く扉が開く。
そこから現れたのは、紛れもなく英雄の姿だった。
所々跳ねた癖ッ毛のある黒髪、見るもの全てを見通すかのような冷静さを醸し出す眼光、代名詞である黒衣、左手だけに嵌められている革製の手袋。
そして、低身長。
160cmらしい彼の身長を、この場の者は皆、見下ろせるはずなのに何故か見上げている感覚を覚えた。
訓練場内が沸く。
「うわぁぁぁぁ!!?
本当だ!本物の英雄だぁ!!」
誰かがそう叫ぶのを皮切りに、訓練場は喧騒に包まれる。
教官が納めようとするも、騒ぎは収まらない。
そんな中英雄は、涼しげな微笑みを浮かべているだけである。
教官の尽力により、ようやく恐慌とも呼べる事態が終息した頃、僕と英雄は目が合った。
彼は一瞬だけ眉をひそめ、その後僕にウインクした。
………彼は僕の事がわかったのだろうか?
僕と英雄は、実は会ったことがある。
3年前……彼が英雄になる前に。
少しの間だが、寝食を共にした。
3年前と比べて、成長した僕を彼は気づいてくれたようだ。
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