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数学の教師がチビの同級生にキレていた。そんなことよくあることだろう。俺は初め、そう思っていた。だが、黒板消しの粉が付く方で頭を殴ったのにはショックを受けた。そいつは泣いている。髪の毛が真っ白で、一気に年老いたかのようだ。
教師は冷たく席に戻るよう促した。
「私の名前出したら、お前の両親にお前が授業を邪魔したと言うだけだからな」
同級生の他の連中逹も冷たくせせら笑う。俺にはあのチビが可哀想でならなかった。
土子が「零水君」と俺を呼ぶ。
「大丈夫?」
俺は胸糞悪いものを見た気分で目を閉じ、落ち着こうとした。
「大丈夫だ、土子」
俺が自分の影が薄いのに気付いたのは屋上でまた飛んでみようかと思っていた時だ。
フェンスを乗り越えた時、ふと自分の影を見た。何者かが笑っているようで不気味な影が薄っすらと伸びている。それは街中を飲み込みそうなぐらい長かったが、太陽の直射日光に当たっているに関わらず、色が薄かった。
俺は自分がシカトされるのは、そのままの意味で影が薄いせいだと判断した。笑っちまうよな。ようやく分かったんだ。俺に必要なものは人の〝影〟だった。
俺は人の〝影〟を奪うことに興味が湧いて仕方なかった。
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