第1章

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その間、家族の夢に出てきたり、家の中で物音をさせたりなど、なんからの形で現れることがあるという話を里菜は聞いたことがあり、それを期待していたのだ。 「いやあ、人気者だから忙しくてね。あっちこっちと飛び回っていたんだよ」 そう言って鼻の穴を膨らませた。得意気に何かを語るときの癖は、昔も今もちっとも変わらない。 「弔問客に来てくれたひとり一人にお礼を言いに行っていたんだ」 「そうよねぇ。みんな忙しいとろこに来てくれたんだからね。きっとそんなことだろうと思っていたわ。まあ、そのうち会いに来てくれると思っていたけど」 ママは当然のような口ぶりだ。 「そう言えば、パパの元部下の人が素敵な弔辞を読んでくれたわよ」 「おう、知ってる。さすがはパパの部下だろ」と鼻の穴を膨らませる。 「ほかの人たちも本当にお世話になりましたって。ちょっと嬉しかったな私も」 表情がいっそうニヤけてくる。褒められるとすぐに顔に出るのも、まったく変わらない。 「知らなかった話、いろんな人からいっぱい聞いたよ。すごくお世話になったとか、話を聞いて救われたとか、励まされて奮起したとか、そんな話を」 「死人の悪口を言う人はいないからねぇ」とママ。「それでも、ホントにみんながパパにはお世話になったって」 鼻の穴はビー玉が入りそうなほどに膨らんでいる。 「そんなわけで49日間はオレも忙しかったわけだ。あっちの世界では、先に逝っていた兄貴やオヤジ、オフクロとのやりとりもあったりで、こっちにいたときよりも大忙しだった」 「ふぅん。だから、私とママは後回し?」 「何言ってんだい。ちっともわかってないな、お前は。いつでも見守っていたに決まってるじゃないか。まあ、いい。でも、ちゃんとこうして会えただろ。こうやって会えるようにするにも一苦労だったんだぞ」 そう言われても、何の実感もない里菜にはよくわからなかった。 それに、今この瞬間だって、単なる妄想。 そう、妄想旅行なんだから。 「里菜、いいか。現実ってのはな、ほとんどが妄想なんだ。妄想がすべての現実を生み出しているんだ。良いことも悪いことも、人の心が思ったことがすべて。それがすべてきちんと一分の狂いもなく正確に現実に反映されている。それが現実」 どこかで聞いたことがあるような話だけど、やっぱりよくわからない。
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