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霧が、今日も全てを覆い尽くそうとしていた。
この町では夕方から早朝にかけて、異常な量の霧が視界を奪う。
通常であれば迷惑な事この上ない状況だが、この町の人間にとっては、それは朝太陽が出て夜沈むのと同じ、当然の自然現象だった。
ようやく慣れてきたこの便利で不便な視界も、今日でおしまい。
いつものように、酒場『foggy days』の木戸を開け、ジェイはその細身の体を滑らせた。
カランカランと入口の鐘が乾いた音を立てると、グラスを磨いていたバーテンが、ちらりと顔をあげた。
この酒場は、たいして広いものではない。
4人掛けの円形テーブルが3セットと、7脚の椅子が添えられたバーカウンター。それが、この店の全てだった。
部屋の中は、長年染み付いたタバコとアルコールの匂いで満たされている。
窓はない。
採光は、テーブルとカウンターに置かれた、こちらも年季の入ったランプのぼんやりとした明かりのみだ。
普段なら、町の男たちが集まって酒を酌み交わすこの小さな店内も、まだ日没前だからか、客は、彼の他にはバーカウンターにひとりと、すでに酔いつぶれてイビキをかいている老人がひとりいるだけだった。
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