第2章 【霧の町】

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「来たか」 バーカウンターの方から声がした。 扉から一番離れた薄暗い席に座っていたのは、体格の良い壮年の男。 一見して、この寂れた川沿いの町、リバーサイドの人間でないことは明らかだった。 旅装束に身を包み、足元には使い古された両刃の剣と、たくさんの傷が入った鋼鉄の鎧。そして、旅人が常備している、大きくて丈夫な麻袋。 鎧の胸元には、強国イストルランドの紋章、通称「銀十字」が輝いている。 ジェイは苦笑を洩らすと、その男の隣に腰を下ろした。 バーテンがいつもの酒をテーブルに置くのを待ってから、ジェイは口を開いた。 「久しぶりだね、トリノ。ここんとこ仕事無いから、すっかり忘れられたと思ってたよ」 「王妃の警護が本職だからな。お前のようにいつも暇をもて余している訳ではない。お前の方こそ、そこらじゅううろうろと旅しやがって。なかなか捕まらんじゃないか」 「そうそう、オレ忙しいんだ。世界中の女の子の相手しなくちゃいけなくてさ」 トリノと呼ばれた男は、そんなジェイの言葉を聞き流すと、いくつもの古傷の残った浅黒い腕を曲げて、手首に巻かれた腕時計を確認した。 そして自分達の他に客がいることを見留め、若干低めの声で切り出す。 「早速で悪いが、犯罪者を捕らえてもらいたい。相手が相手だ、やむを得ない場合は、相手の生死は問わない」 「やむを得ない場合なんて、えらく物騒だね」 ジェイは他人事のように笑う。
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