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トリノは上着の内ポケットから1枚の写真を取り出すと、ジェイの手前に滑らせた。
この町で撮られたのだろう。男の全身が写されたその背景には、見たことのある建物があった。
痩せぎすで、ガリガリとも言える体格とやや高めの背丈。銀縁の眼鏡をかけ、癖毛の金髪。目付きはお世辞にもいいとは言い難く、すっと細い。
キッと結んだ口許が、一層扱い辛そうな印象を受ける男だった。
筋肉のかけらもないその姿は、先程トリノが言った「やむを得ない場合」とはかなりかけ離れているようだった。
しかし、その男が「上級魔導師」を意味する、金色の刺繍入りのマントを羽織っていることに気付き、ジェイはようやく理解する。
「ふん、上級魔導師ねぇ」
ジェイは写真を手にすると、そのままランプの炎に近づけた。
ちろちろと写真を舐める炎を眺めた後、目の前にあるウイスキーの入ったグラスにぽいと投げ入れた。
写真は一瞬炎をあげたあと、じゅっと音をたててグラスの中へ。
「パーカディア殺戮事件の犯人だ」
その町の名前を聞き、ジェイは「あぁ」と声を漏らす。
世論に疎い人間でも、その名を聞くと知らない者はいない事件。
「どこかの馬鹿な魔導師が大陸消滅呪文ぶっぱなして、町ひとつぶっ壊したんだっけか」
魔法を使った事件と魔導師。ここまで聞けば想像するには充分だった。
トリノは続ける。
「それから、その男は女を連れている……これまでの調べでは女の情報はなかった。
事件と無関係だとは思うが、場合によっては、やむを得ないが……頼むぞ」
トリノは語尾を濁した。
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